
古来から伝わる着物の柄の意味 ー有識文様他ー
このコラムでは、日本に古来から伝わる着物の柄の意味について解説していきます。
前回の「古典的な文様」に引き続き、最後の今回は「有識文様」などについてまとめていきます。
「植物の文様」についてはこちら→『古来から伝わる着物の柄の意味 ー植物の文様ー』
「生き物の文様」についてはこちら→『古来から伝わる着物の柄の意味 ー生き物の文様ー』
「古典的な文様」についてはこちら→『古来から伝わる着物の柄の意味 ー古典的な文様ー』
Contents
有識文様の意味
有識文様とは
まずは、「有識文様」とは何か?ということをお伝えしておきます!
有識文様とは、安時代以降の公家社会において、その装束や調度、輿車、建築内装などに用いられた伝統的な文様のことです。(ただし、このような呼び名になったのは、近世以降。)
しかも、面白いのが、私たちにとって下に紹介している「有識文様」と言ったら、ザ和柄!というイメージがありますが、その起源は日本ではなく、大陸から伝来した古代文様が原型と言われています。
しかも、大陸といっても、近場ではなく、古代オリエント(今でいう中東地域)からの伝来とのこと。
有識文様以外にも、現代では日本の伝統文化になっているものも、元を辿れば他の地域から入ってきて、日本独自の発展をして今に至るものは数多く存在するので、ぜひそんな視点でも日本の伝統文化を見てみて下さい♪
【麻の葉 ーあさのはー】
文様の意味:心身硬固
麻の葉模様とは、麻の葉を図案化して六角形が重なる幾何学模様のこと。
麻の葉は成長が早いことから強い生命力を象徴し、丈夫に育つようにと祈りが込められ、子供の産着などに描かれました。
また、六角形は六芒星と同じく、魔を除ける力があるともいわれています。
【編目 ーあみめー】
(『きもの京小町』HP引用)
文様の意味:招福
網目同士を引っ掛けるように交差した文様です。
福を「からめとる」、「すくいとる」といわれています。
【井桁 ーいげたー】
(『KARAKUSAYA』引用)
文様の意味:金運上昇
井桁はもともと井戸の上に置く、木で四角く組んだ蓋を図案化したものです。
昔、井戸は生活になくてはならないものだったことから、生活を守る象徴として描かれました。
風水では、水は財運の象徴。水が湧き出る井戸にちなむこの文様は、金運上昇として描かれました。
【市松模様 ーいちまつもようー】
(『シンエイ』引用)
文様の意味:魔除け、勝負運上昇
もともとは「石畳模様」と呼ばれ、古墳時代の埴輪の模様にも見られる最古の文様。
江戸中期の歌舞伎役者「佐野川市松」がこの柄の袴を用いたことからこの名がつきました。
九字切りの形と同じことから、魔除けの力があるといわれています。
また、西洋では、チェッカー盤の柄をあらわすので、勝負運に通じるとされています。
【鱗 ーうろこー】
(『豆千代モダン新宿店』引用)
文様の意味:不死、厄除け
地と三角形が交互に入れかわって構成される文様。
魚や蛇の鱗に似ているためにこの名がつけられました。
古代、蛇は脱皮する様から「死と再生」をイメージした人々は、蛇を「不死」の象徴とし、崇め奉りました。
また、女性の厄除けとして身につける風習もあります。
【角通し ーかくどおしー】
(『バイク呉服屋の忙しい日々』引用)
文様の意味:筋を通す
柄の縦と横が直角に交差し、同じ感覚で点が並べられた江戸小紋の文様の1つです。
縦にも横にも「筋を通す」という意味があります。
【籠目 ーかごめー】
(『呉服のひぐち』引用)
文様の意味:除災招福
竹で編んだ籠の紋様を図案化した文様です。
その昔、籠は呪術用具で、籠の中は神仏が宿る異空間とされてきました。
そこから、籠目模様は悪霊を祓い、善霊を引き寄せるために描かれました。
【行儀 ーぎょうぎー】
(『きものの美 和』引用)
文様の意味:礼を尽くす
規則正しく45度で交差する点が等間隔で並んだ江戸小紋の文様の1つです。
行儀作法の「礼を尽くす」という意味があります。
【雲 ーくもー】
文様の意味:五穀豊穣、運気上昇
万物は雲から形成されたとされ、空に漂う雲は良いことの起きる兆しといい伝えられていました。
雲の上には極楽浄土があり、そこに神霊が宿ると考え、人々は願いを託しました。
雲は雨を呼ぶことから実りと豊穣をあらわし、良きことを呼び寄せ運気上昇の願いも込められています。
【格子 ーこうしー】
『みやたけBOOK』引用
文様の意味:魔除け
格子のマス目は魔物を見張ると言われ、魔除けの意味を持っています。
【工事繋ぎ ーこうじつなぎー】
『みやたけBOOK』引用
文様の意味:延命、長寿
地紋としてよく用いられる、「工」の字を斜めに崩して繋ぎ合わせた連続文様です。
そこから、延命、長寿の意味があります。
【光琳波 ーこうりんなみー】
(『みやたけBOOK』引用)
文様の意味:清らか、正義
尾形光琳が創始した装飾的な波文様。
S字に屈曲し、渦巻模様に図案化された独特の水流文様は、とても柔らかく、終わりなく続く水の流れをあらわしています。
流水は流れがあり腐らないことから、清らか、正義などの意味につかわれてきました。
【鮫 ーさめー】
(『みやたけBOOK』引用)
文様の意味:厄除け、魔除け
鮫皮状に細かい粒の扇形の模様を重ねた文様。
江戸小紋の文様の1つ。
鮫の肌が硬いことから鎧に例えられ厄除けや魔除けの意味をもちます。
【紗綾形 ーさやがたー】
(『三河神前挙式ブログ』引用)
文様の意味:家の繁栄、長寿
卍を斜めに崩して連続文様にした文様です。
桃山時代に中国の明から伝わった織物「紗綾」の地紋に使われていたことから、この名がついたといわれています。
「不断永久」の永遠をあらわすことから、家の繁栄や長寿を意味しています。
【青海波 ーせいがいはー】
(『きものを着たい!』引用)
文様の意味:無限の幸せ
青海波は、鱗状の文様を上下左右に連続的に配した文様で、古代ペルシャで考案され、シルクロードを経て中国、そして日本へと伝えられたといわれています。
四方を海に囲まれた日本で独自の意味を持ち、海の恵みと穏やかな無限の広がりをあらわすとして「無限お幸せ」「人々の幸せな暮らしがいつまでも続くように」という願いが込められています。
また、地域によっては厄除けの文様として使われています。
【唐草 ーからくさー】
(『きものを着たい!』引用)
文様の意味:一族繁栄、長寿
つる草が四方八方に伸びてからみあう模様です。
どこまでも伸びていく蔦の様子は生命力の象徴。
一族の繁栄や長寿を意味します。
【観世水 ーかんぜみずー】
文様の意味:清廉、正義
能楽の家元、観世家が用いた水文様。
「流れる水は腐らず」といわれることから、清廉、正義を意味します。
これと似た文様で、「光琳波」がありますが、同一視される一方、光琳波の方がもっと流動的な柄ともいわれています。(光琳波の着物は、当ブログにも掲載していますので、ご参照下さい。)
【亀甲 ーきっこうー】
文様の意味:不老長寿
亀の六角形の甲羅から名付けられた文様。
六角形は三角と三角が上下に重なったもので、調和を象徴しています。
上の三角形は精神的な創造性、下の三角形は物質的な創造性をあらわし、それらをバランスよく調和させているといわれます。
また、亀は寿命が100年〜200年ととても長寿なことから、鶴と並んで長寿の象徴とされています。
【七宝 ーしっぽうー】
文様の意味:夫婦円満、子孫繁栄
同じ大きさの円を4分の1ずつ重ねていく文様。
「輪違い」とも呼ばれます。七宝は仏教用語で、金、銀、瑠璃(るり)、玻璃(はり)、珊瑚、瑪瑙(めのう)、千年生きるとされるシャコガイの宝物をあらわしています。
円の形は円満をあらわし、それが重なっていくことから、縁起がいいとされました。
永遠の連鎖から「調和」、拡大から「円満」といういう意味ももちます。
【花菱 ーはなびしー】
(『シンエイ』引用)
文様の意味:高貴、上品
花菱は、菱形の中に花びらを4枚描いた文様です
甲斐武田家をはじめ、多くの日本企業や松本幸四郎さん、市川染五郎さんの家紋としても使われています。
平安時代から、有識文様の1つとして一部の人たちしか使うことを許されなかったことから、高貴、上品などの意味を持っています。
【菱 ーひしー】
(『シンエイ』引用)
文様の意味:子孫繁栄、無病息災
一年草である水辺植物の「ヒシ」の葉や実に似ていることから、菱型と名付けられ子孫繁栄や無病息災の意味を持っています。
【毘沙門亀甲 ーびしゃもんきっこうー】
(『和の素敵』引用)
文様の意味:財運アップ
四天王の一尊である毘沙門天の着衣や甲冑に用いられたことからその名が付きました。
七福神のひとつであることから財をもたらす文様とされています。
【水玉 ーみずたまー】
(『シンエイ』引用)
文様の意味:金運上昇
物事の始まりをあらわす文様。
風水では金の力を持つといわれる丸い円で、無の状態を埋めていくことから、金運アップの文様といわれています。
【丸文 ーまるもんー】
文様の意味:良縁、調和
丸(円)は、始点も終点もないことから、無限をあらわす縁起のいい文様として、多くの打掛に描かれてきました。
単に丸く描くだけではなく、その丸の中に、その他の吉祥文様を描いたり、花などを丸く文様化したり(花丸文)、動物を向かい合わせて丸く描いたりと、様々な吉祥文様と組み合わせることで、よりおめでたい意味や願いが込められます。
【矢羽根 ーやばねー】
『市川』HP引用
文様の意味:恋愛成就、邪気祓い
矢羽根とは、矢の上部につける鷲や鷹や雉などの羽のこと。
邪気を祓う文様とされています。
正月の破魔矢などにもあるように、福を射止める力もあるとして尊ばれています。
また、飛んだ矢が出戻ってこないとされ、結婚の際にこの柄の着物を持たせる慣習があります。
あきざくらの想い
全4回を通じて、着物の文様の意味をご紹介してきました。
文様の意味から、日本人がいかに自然と共に生き、自然を敬い、自然から学んできたか、感じられた方も多いのではないでしょうか。
20世紀産業革命以降、人間は自然破壊を繰り返してきましたが、今改めて古来日本人の生き方から学ぶことは多いはずです。
また、もう1つ古来日本人が大切にしてきたことが「言葉の持つ力」。
現代ではダジャレやおやじギャクと言われてしまうような意味づけ(フクロウが「不苦労」だから縁起がいいなど)も、言葉の持つ力、「言霊」を信じていたからこそ、受け入れられてきました。
ぜひ、そんなことも踏まえて、ご自身の着物の柄を選んで頂いたり、誰かにプレゼントして頂けたら嬉しいです。
きっと、より想いの伝わるプレゼントになりますよ。
こんな柄の日傘が欲しい、こんな柄の着物扇子が欲しいというご要望がありましたら、ご遠慮なくcontactからご相談下さいませ!
皆様の、着物ライフ&着物アップサイクルライフがより豊かなものになることを願ってます^^